夜想葬曲

詩や短歌、想う事など

HiGH&LOWに存在する二種類の『オメラス』

 HiGH&LOWが面白い。内容がどうとか説明すると長くなるからとりあえず見てない人でこのページ読んで興味持ったら見てみてくださいね。
 そのHiGH&LOW、ストーリーはほぼ簡潔に男達がプライドをかけて殴り合ってる愛すべき馬鹿ストーリーなんですがなんだかんだたまに人物の持つ生き様というか宿命が重い。
 なんでそんなに傷付きながら生きてるんだお前ら、、、とここまで考えて気付いた。「オメラス」だ…………。
 HiGH&LOWという世界を成り立たせる存在は何なのか……それを解き明かすため我々はオメラスへと飛んだ……。


■はじめに
 『ゲド戦記』などの著者アーシュラ・K・ル=グィンの作品の中に「オメラス」という理想郷が存在する。「はて、どこかで聞いたことがある単語だな」と思う人も多いだろう。
 今回は、この「オメラス」がとんでもなくHiGH&LOW……と言うより「HiGH&LOW、めちゃくちゃオメラスじゃねぇか!!!!」と頭を抱えたので共有したくてHiGH&LOWオメラス論を書くことにした。
 みんな「オメラス」がすごいから読んでほしい。私は読んで1週間はどん底のどす黒い感情を抱えて過ごし、それ以降オメラスに囚われているんだ。
 要は、

私だけオメラスで苦しんでるのは納得行かねぇ!!お前もオメラスにしてやろうか!!

という記事である。
 ここまで長谷川博己の声で脳内再生された君はアテナセキュリティで僕と握手!

 

■「オメラス」とは
 一言で表すと「理想郷」である。
 SF短編集『風の十二方位(アーシュラ・K・ル=グィン著)』の中にある『オメラスを歩み去る人々』という本当に短いお話に登場する理想郷、それが「オメラス」。

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──「オメラス」という楽園がある。そこは筆舌に尽くし難い程幸福に満ちている理想郷で、争いも飢えもなく、人々に笑顔が溢れ誰も悲しみや苦しみで涙を流したりしない、テクノロジーも何もかも充実しており、広場では子供達が走り回っている、我々では想像が追いつかない程のまさに「理想郷」である。
 しかし、この「オメラス」が楽園であるために、オメラスの地下に1人の子供が閉じ込められている。
 地上には惜しみ無く降り注ぐ太陽の光も届かないじめじめした部屋で、垂れ流しとなっている自らの汚泥に塗れて部屋の隅に蹲ってただ生きているだけの子供だ。
 この子もかつてはオメラスの恩恵を受けて生きていた罪なき子である。
 「オメラス」が理想郷であるために「1人の罪なき子を地下へ閉じ込めていなければならない。助けようとすればたちまち理想郷は崩壊する」という世界との契約、システムなのだ。
 オメラスの住人は全員この存在を知っているし見ている。
 見て、見ぬ振りをしている。
 オメラスの、自らの幸福の為に──
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風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-2) (ハヤカワ文庫 SF 399)

風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-2) (ハヤカワ文庫 SF 399)

 

 

という、いわゆる「少数の犠牲の元に多数の幸福がある」「1人を殺して大勢を救う天秤問題」の道徳哲学からきているお話である。
 ね? とてもHiGH&LOWでしょ? え? わかんない? どこがオメラスと関係があるのかって? いい質問ですね。それでは以下のフリップ(本題)をご覧ください。


■登場人物にとってのオメラス「SWORD」

 まず、主人公(みんな主人公なんだけど)のコブラ達メイン登場人物が住む地域がSWORD。これを守ろうと彼らは外部から侵略する九龍に立ち向かう。
 まあ彼らはSWORDを守って傷付きながら戦ったりしてるので苦も飢えもない理想郷かと言われたら違うかもしれない。けれどHiGH&LOWにとって物語上ここが「世界」であり理想郷なわけである。
 その理想郷は「均衡を保つ」事で成り立っている。お互いに手出ししなければ内部の争いは起きない。
 その均衡を保つため、閉じ込められている者がいる。
 「日向紀久(林遣都)」の存在である。
 
○日向紀久の存在
 日向四兄弟の末っ子日向紀久。ご存知の通り兄率いる日向会がムゲンに敗れ親グループだった九龍から破門され家は解体、九龍やムゲン(山王)に挑む復讐鬼である。
 一見彼自身が災厄そのものに見えるが、日向紀久自身には元々罪は無い。
 彼は家族もあった、地上で普通の少年として(多分)暮らしていたのに「復讐者」「達磨一家の長」になるために家を解体されプライドを折られ地を這い泥を啜りながら「俺が何をした」と拳を打ち付け血を流しているわけである。
 そして地下牢の子供よろしく刑務所に隔離されてしまうわけである。

 なんのために?

SWORDの平和のために。

 SWORDが均衡を保てるために。平和であるために。SWORD(または九龍)の民が幸福であるために。
 日向紀久の犠牲の上にSWORDの均衡が成り立っているのである。
 日向紀久は「SWORDの幸福」のためにあんな境遇にされ復讐鬼にされ幽閉までされているわけである。
 この日向紀久を誰も助けようとはしないのだ。だって地下の子供を出したらオメラスの平和は崩壊するんだから。
 それを家村会が刑務所から地上へ日向紀久を引きずり出した。そして始まったのは日向紀久(達磨一家)によるSWORDの蹂躙、まさにSWORDの平和は崩壊したわけである。
 ね?とってもオメラス。もうすごいオメラス。
 つまり地下牢の子供(日向紀久)の犠牲の上に均衡(平和)を保っているSWORDはまさにオメラスなんだよ!
 
 余談だけどこの日向紀久をコブラがボコボコにして救ってしまうんだけれど、SWORDの地下牢は空になってしまったために平和にはならない。琥珀さんを始めとするダウトやらマイティやらが理想郷を崩壊させんと出てくるのだが、詳しくは映画を見ましょう。見た人ももう一回見ましょう。

けれど、オメラスはそこでは終わらない。
タイトルは「オメラスを歩み去る人々」なんだ。

歩み去る人々って何?どこにもいないじゃん。HiGH&LOW関係ないじゃん。

いるじゃん。いたじゃん。シーズン2にさ。


■視聴者から見るオメラス「HiGH&LOW」

 HiGH&LOWという作品全体を「理想郷」と捉えた場合、
トーリーが進む=HiGH&LOW(理想郷)の安泰
となる。
 さてそこでストーリーを作り出すために「かつては地上で光を浴びていた」「罪も無く」「どん底の人生を定められた」人間だーれだ!

ノボル君である。

 山王生まれなのに頭が良くて勉強が好きで人のためになる仕事がしたくて大学まで行って…という山王の希望の星であり王冠であるノボル。
 なんの罪も無く生きて愛する人まで出来たのに彼は刑務所に入りヤクザになるしか無く常に後ろから拳銃を突き付けられ自分の故郷に敵意を向け仲間に銃を向けなければならなくなった。
 もうまさにノボルからしてみれば「どうして自分が」だし我々からしても「ノボルが何をしたんだ!」状態。本当にノボルが何をしたと言うんだ。
 けれどノボルがそうなってしまった事でHiGH&LOWは回る。山王はノボルの帰る場所として機能し2匹の虎は王冠を守るように君臨している。
 ノボルが泥を啜る事でHiGH&LOWが動く。
 ノボルは山王に戻ろうが過去を、ミホを一生引きずっていかなければならないのだ。
 ノボルが何をしたって言うんだ。

 ところで「オメラス」、市民は地下の子供がどんな生活をしているのかを年頃になれば教えられ、その子供を見に行く。
 そしてその扱いに怒る者、ショックを受ける者だって当然出てくる。が、彼らはオメラスの幸福を壊すのは避けたいので子供に救いの手を差し伸べる事はできないのだ。
 1人の犠牲の上に自分の幸福がある事にショックを受けた市民の中から、たまにふらりと姿を消す者がいる。
 与えられた幸福を捨て、オメラスの門を潜り、真っ暗な外の世界へ出ていく。
 外の世界に何があるのか我々にはわからない。けれど彼らはそれぞれ目指す場所が分かっているらしい。

 ノボルの人生にショックと罪悪感に苛まれたミホはHiGH&LOWを歩み去ってしまった。
 ミホも幸福であったとは言えないが、ミホを救うため地下に落とされHiGH&LOWの地下で生きたノボルに罪悪感を抱いて「私を許すな」と去ってしまうのだ。
 以上の事からオメラスなんだよHiGH&LOWは。誰か(キャラ)の苦しみの上に我々の娯楽があるんだ。
 みんなオメラスろうぜ。

ミホしんどい。ノボルもしんどい。

厳密に言えば雨宮兄弟というか雅貴もオメラスの地下にいる子供なんですけどそれを言い出すと論文レベルの文字量になると思うので皆さんオメラスを読んで察してください。