夜想葬曲

詩や短歌、想う事など

鯨の歌

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鯨の歌

 

ここは海の底の底

クジラの声が聞こえます

まっさかさまにおっこちて

ぼくの影はどこへやら

すこしの光は藻に砕け

硝子のように散りに散り

 

ここは海の底の底

クジラがどこかで歌います

まっさかさまにおっこちて

ぼくの声はどこへやら

すこしの息は泡に消え

空に向かう星になり

 

ここは海の底の底

クジラが誰かに歌います

彼らが揃うて歌うのは

遠い太古の昔の昔

誰かの母が歌う唄

ヒトの忘れた子守唄

 

ぼくは海の底の底

クジラの歌に飲み込まれ

君は水際(みぎわ)に消えちゃった

今日もどこかで

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今日もどこかで

静かにあめが降りました
温かいのか
冷たいのか
あまいのか
にがいのか
わからず袋に詰めました

空があかく焼けました
朝になるのか
夜になるのか
うれしいのか
かなしいのか
知らずに瓶に詰めました

風が吹いたのですが
それは袋にも瓶にも入らずに
ひとりでに笑っておりました

星が輝いておりました
あまりに清廉で
あまりに綺麗で
あまりに多様で
あまりに唯一で
一つケエスに詰めました

あとは花や水や音楽や
それらを誰かが匣に詰め
誰かが今日も生まれます

 

 

夜明け頃

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夜明け頃

月が行灯を食べる頃
裏戸で鯨が跳ねました
そうっと出てきたお日様は
地平に朝を告げるのです

さて、その頃山が恋をする
欠伸を溢すセーラーに
木々はその葉を赤く染め
彼女に首(こうべ)を垂れました

お日様立橋昇る頃
鯨が月を食べました
そうして朝はやってきます
電車に乗ってやってきます

春の神話

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春の神話

桜ひとつ眠った連理の枝
雪がそっと開いた
月の憂いにも似た瞳は揺れる
夜の帷の中

いつか誰かが呼んだ名前をひとつ
雪にそっと溶かして
朝日手招いてほら
狛犬たちがやさしく笑ってる

散らざるはあなたの言の葉
止めないで風が薄紅に
色づくから

愛しい季節にこの手を触れて
胸に抱いて桜をあげよう
足跡が消えゆくこの春の日に
風は光り里へと翔けゆく

 

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